アラカルト

「祈る手」

新型コロナウィルスの影響で誰もが心に不安を抱えながら自粛生活を送っています。

一日も早くこの状況が終息する日を祈っています。

今回は、「祈り」についてのお話です。

「祈る手」

ルネッサンス時代のドイツの「アルブレヒト=デューラー」という画家の描いた「祈る手」いう絵画があります。

この「祈る手」は作品も素晴らしいですが、その背景にはこんなステキなお話があります。

「アルブレヒト=デューラー」がまだ無名で修行時代のお話です。

ドイツのニュルンベルグの町にアルブレヒトハンスという若者がいました。

二人とも貧しい家に生まれましたが、幼い頃から「画家になりたい!」という夢を持っていました。

二人は、版画を彫る親方の元で見習いとして働いてましたが、毎日忙しく絵の勉強ができませんでした。

ある時、ハンスがアルブレヒトにひとつの提案をします。

「このままでは二人とも画家になる夢を捨てなければいけない。でも僕に良い考えがある。二人一緒に勉強できないのであればひとりずつ交代で勉強しよう。

ひとりが働いてもうひとりのためにお金を稼いで助けるんだ。そしてひとりの勉強が終わったら、今度は別のひとりが働いてそれを助けるのだ。」

と。

どちらが先に勉強するか、二人はゆずりあいました。

「君が先に勉強してほしい。

君の方が僕より絵がうまいからきっと勉強が早くすむと思う」

ハンスの言葉に感謝してはアルブレヒトはイタリアのベネチアへ絵の勉強に行きました。

そしてハンスはお金のたくさんかぜげる鉄工所につとめることになりました。

アルブレヒトは、

「一日も早く勉強を終えてハンスと代わりたい」

とハンスの事を思い、寝る間もおしんで絵の勉強をしました。

そしてハンスもアルブレヒトのために早朝から深夜まで重いハンマーを振り上げ、今にも倒れそうになるまで働き、お金を送り続けました。

ハンスは、

「自分が良いと思うまでしっかり勉強するように!」

とアルブレヒトが絵の勉強に集中できるように手紙に書きました。

数年後、アルブレヒトはベネチアで高い評判を受けるようになり、故郷に帰る事にしました。

再会、そして生まれた名画

二人は手を取り合って再会を喜びました。

ところが、ハンスの手を握りしめたままアルブレヒトは呆然とします。

そして泣きました。

ハンスの両手は長い間の力仕事でごつごつになり、指が曲がり絵筆が持てない手に変わってしまっていたのでした。

自分の成功が友達の犠牲の上に成り立ってしまった現実。

自分の夢をかなえるために親友の夢をうばってしまったことにアルブレヒトは悩みました。

そして、

「何か僕にできる事はないだろうか?」

「少しでも彼につぐないたい」

と、ハンスの家をたずねます。

ドアをノックしましたが、応答はありません。

でも、人が中にいる気配がします。

ちいさな声も部屋の中から聞こえてきます。

アルブレヒトは恐る恐るドアを開け、部屋に入りました。

すると!

ハンスはゆがんでしまった手を合わせ、一心に祈っていました。

「アルブレヒトは私のことで傷ついて苦しんでいます。自分を責めています。神様、どうかアルブレヒトがこれ以上苦しむことがありませんように」

アルブレヒトはその言葉を聞いて心を打たれました。

成功をねたみ、うらんでいるにちがいない!と思っていたのにハンスは自分自身の事よりもアルブレヒトのことを一生懸命祈ってくれていたのです。

ハンスの祈りを静かにきいていたアルブレヒトは祈りが終わった後、彼に近づいてお願いしました。

「お願いだ!君の手を描かせてくれ!

君のこの手で僕は生かされたんだ!

君のこの手の祈りで僕は生かされているんだ!」

と。

こうして1508年、友情と感謝の心がこもった「祈りの手」が生まれました。

誰かの犠牲になって生きるのは辛いことだけれど、誰かのためにできることがあったとしたら。

それはきっと幸せなことです。

誰かの夢が自分の夢となって頑張れることもあるのかもしれません。

アルブレヒトが有名になることでハンスの手も、そしてそのモデルとなったハンスも有名になりました。

こうして絵と一緒に語り継がれる話になりました。

この作品は、アルブレヒトハンスの二人がいたからこそ完成したのです。

この世で一番美しい手だと言われています。

働くては美しい

宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」の中でも老人たちがナウシカに「働く美しい手」だと言われた自分たちの手を誇らしげに思っています。

一生懸命働いた手は、何もしない手よりも生きた証として美しく輝いているのでしょう。

家族のために食事を作ってくれたり世話をしてくれる母親やパートナーさんの手もまた美しい手です。

そこには愛があります。

そんなことを思い返させてくれた「アルブレヒト=デューラー」の神話のような「祈る手」のお話です。

不安を抱えながら生活している今、誰も自分のことだけを考えがちです。

買い占めをしたり、誰かをちゅうしょうしたり、世の中が乱れています。

そんな中でも誰かのためにと頑張ってる人たちはたくさんたくさん存在しています。

アルブレヒトを思うハンスのような心です。

ハンスのように働く美しい手です。

自分を大切にすること、愛する人を守る心は一番大切です。

そして、その思いやりをほんの少しずつでも。

ほんの少しだけ他者への思いやりの気持ちを集めたら。

この世界は少しずつ愛で変わっていくのではないかと思います。